Vol.12
最後にほっと、一息
一丁の拳銃に、三色のかわいい糸がからまり、一本の針が添えられている。その周りには刺繍模様が施されている。まるで、お裁縫箱の中に拳銃が紛れ込んでしまったかのような印象の、どこか挑発的でユーモアも漂う、映画のチラシ。メインビジュアルには出演者の姿もなく、監督名も出演者名も、一目見ただけでは認識しづらいほど小さい。メインは銃と糸と針、のみ。わざわざそれだけにしてある、ユニークなコンセプトの映画チラシには、公開日が12月19日とあった。
クリスマス間近の水曜日、新宿駅に降り立ち、J R中央東口改札を出て台湾カフェの横の階段を地上へと上り、新宿シネマカリテに向かった。新宿NOWAビルの、黄色い壁が特徴的な地下への階段を降りる。映画館の入口を入ると、思ったよりも混雑していた。昨日ネットで見た時には空席が目立っていたが、カウンターでチケットを買う時点で「残席わずか」。最前席を覚悟したが、程よい席が一席残っていたので胸をなでおろした。ロビーには女性も多く見られ、チラシビジュアルの効果だろうかと想像する。想像するにおそらくクライム映画であるのだろうけれど、どこか洋裁、あるいは仕立屋の映画の雰囲気もある。邦題も『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』とあり、やはりお針子の映画なのだろう。…しかし。キャッチコピーが「武器は針と糸だけ」。ということは、クライム映画だろう。拳銃相手に、針と糸で応戦するのだろうか、果たしていったいどんな映画なのか、油断ならない挑発的な空気が漂う。しかも、世界観にはかわいらしさがある。ますます謎である。なぞなぞに誘われるまま、座席に腰を下ろした。
スクリーンに映画が映し出されると、そこにはマフィアの事件に巻き込まれたお針子の三つの選択肢をそれぞれストーリーとして描く、工夫に満ちた構成の映画があった。主人公は事件に遭遇して自分の命が狙われ、なんとかして逃げ切らねばならなくなる。咄嗟に考えた主人公の逃げ切り方が三つの選択肢となる。選択肢の先にある出来事は、それぞれ事件の切り抜け方も展開も、生まれる感情も、描き方もテンポも異なる。さらには針と糸の使い方も。見ていると、物語も描き方も、裁縫アイディアも、なるほどたくさん存在するものだと驚かされる。選択は三つにしてあるが、まだまだ他にもあるのだろうと思わせてくれる。
さらに映画を見ていて感嘆したのは、あらゆる工夫を凝らして長編映画として作りきった点だ。この映画には、先に6分の短編映画が存在する。その短編映画を元にして作られたのがこの長編映画になるわけだが、短編映画と長編映画というものは、同じ「映画」ではあるけれど、全く異なる分野と言っても良いほどに、作り方も、その良さも面白さも違うものだ。そのため短編映画を長編映画にしようと試みても、とても困難な時もある。
この映画はその困難を乗り切る選択肢を見せてくれる。一つの線のストーリーを紡ぐのではなく、三つの線を使う作り方もあるということを。ちょうど、三色の糸のように。この映画は見方を変えれば短編集のようでもある。しかしそこに、ひと工夫凝らして、三つの選択肢にまつわる物語に仕立て、まとめ上げている。三色の糸で織られた刺繍のようでもある。
そして映画は最後に素敵な工夫も見せてくれる。この映画に隠された、四つめの選択肢だ。それは、原点にかえること。三つの選択肢より以前にある選択肢をそっと見せることで、人生にもあらゆる可能性があることを、知らせてくれている。最後にほっと、一息ついて劇場を後にした。
|
|